献体と骨標本を活用した解剖学研究 

当講座では、献体された遺体や所蔵する骨標本を用いた研究を行っています。遺体を用いた研究は、他講座からの要請に応じ、通常の固定法に加え、Thiel法や未固定遺体を活用した研究にも対応しています。また、国内有数の所蔵数を誇る骨標本は、国内外の研究者による調査に利用されています。若年者から高齢者まで幅広い標本を有しており、日本人の骨形態の特徴や世代間の形態差を明らかにするための重要な試料となっています。

肺から鰾へ—硬骨魚類の形態進化を探る

硬骨魚類の鰾(うきぶくろ)は、原始的な肺から進化したと考えられています。初期の硬骨魚類は、空気呼吸および浮力調整のために腹側に肺を持っていましたが、これが背側に移動し鰾へと変化したとされています。当講座では、現生魚類の形態比較やゲノム解析を通じて、この進化過程の分子メカニズムを解明しようとしています。特にポリプテルスやガーなどの原始的条鰭類を対象に、肺と鰾の機能的相同性についても検証を進めています。

鰓から副甲状腺へ—進化と病態の分子基盤

ヒトの副甲状腺は、原始的な魚類の鰓から進化したと考えられます。当講座では、発生学的・遺伝学的解析を通じて、Gcm2遺伝子がこの変化に果たす役割を明らかにし、副甲状腺の恒常性維持機構の解明を目指しています。また、二次性副甲状腺機能亢進症の病態を解明するため、組織レベル・単一細胞レベルでの解析を進め、慢性腎不全における副甲状腺の分子病態に迫ります。

ゼブラフィッシュの泳ぎから探る運動の本質

ヒトは手足を巧みに動かしますが、その運動の本質をより単純なモデルで探ることは可能でしょうか?当講座では、遺伝子操作が容易で疾患モデルとしても有用なゼブラフィッシュを用い、鰭(ひれ)の筋骨格系の立体構造を解剖学・組織学的に解析しています。また、発生学的視点から、鰭の形態や機能が受精から老化までにどのように変化するのかを調べています。魚類の運動に関する知見を通じ、ヒトの運動機能の理解や医科学・健康増進への応用を目指します。

神経堤細胞が拓く脊椎動物の進化

脊椎動物の独特な構造の多くは、神経堤細胞によって生み出されています。この細胞は、脊椎動物の進化初期において、多様な形態形成を可能にする重要な役割を果たしました。頭蓋骨、顎、感覚プラコード由来の器官、歯などの形成には、神経堤細胞が深く関与していることが知られています。当講座では、表皮下を移動する神経堤細胞群に着目し、これが表皮上の感覚器官や近傍の硬石灰化組織にどのように影響を与えるのかを解明します。

色覚の多様性とカラーユニバーサルデザイン

色の見え方は人によって異なります。先天的な色覚異常に加え、網膜疾患や白内障などでも色の認識は変化します。どのような色覚を持つ人にも情報が正しく伝わるよう工夫されたデザインをカラーユニバーサルデザイン(CUD)と呼びます。当講座では、NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構と連携し、CUDの普及啓発活動を行っています。また、慈恵医大では慈恵CUDチームを結成し、学内施設や各大学・病院の情報発信にCUDを取り入れる取り組みを推進しています。